別府温泉 旅館山田別荘

国道10号と日豊本線の間、JR別府駅の北東部は狭い道路の両側に民家や商店が軒を並べ、春日通りと富士見通りの間は一方通行が町を碁盤の目のように区切る。目的の宿は東へ向かう一方通行の仲間通りに面していた。



木造の建屋は入母屋造りで、木製の窓や建具は可能な限り原型を守り続けているようだ。眺めているだけでここを訪ねた甲斐があるというものだ。
玄関には木板の段があり、靴は手前で脱ぐ。木製のガラス戸を引くと、畳敷きの玄関ホールが迎える。右を見ると洋間がある。南側に台形の出っ張りがある。洋の印象を強くする意匠だ。



奥へ続く細い廊下を進むと内湯の入口が見えてくる。脱衣所は二畳間ほどの空間だ。編んだ籠が4つ、洗面台には焼き物の鉢、ドライヤーとタオル、綿棒が並ぶ。洗面台の隣のドアノブを回すと浴場だ。
深い緑色とオフホワイトのタイルが貼られた階段を5段降りる。浴場の床は地面とほぼ同じ高さとなる。八畳間ほどの広がりをもつ浴場は、長方形の細かいタイルが無数に壁を覆う。薄い水色と鶯色のタイルは昭和の時代に生まれたことを誇るように輝いている。




洗い場の隅に蓋を被せた枡がある。別府ならではの給湯方法だ。源泉は浴槽の底近くに空いた穴から供給されている。窓下の壁から突き出た蛇口からは水が出てくる。浴槽は大きくなく、手前側が湾曲を描く。曲がりの中央淵下には白いタイルが貼られた踏み込みが設けられている。浴槽内は褐色に色を変えている。満たされる湯は無臭、無色。肌を刺激するような個性は感じない。ナトリウム成分と炭酸水素イオンが相対的に多く含まれていることから、味わいには個性を有するのかもしれない。





見上げると、凝った意匠の天井が現れる。木板の天井は湯気で痛むのが早いはず、なのに木の天井は美しく保たれている。色合いもともなって木のぬくもりが伝わり、心の緊張をほぐす。
大きく設けられた透明ガラスの窓からは植栽された小さな庭が見える。朝のうちならば陽射しが差し込み明るい。





宿のパンフレットには、建屋が昭和5年に建造されたとある。保養別荘「静寿堂」だ。戦後、旅館に衣替えされ、今日に至っている。長い年月と関わった人々が懸命に和の風合いを育んできたのだろう。


別府温泉 旅館山田別荘
別府市北浜3-2-18
0977(24)2121 HP
ナトリウム・マグネシウム-炭酸水素塩泉
55.3℃
シャンプー類あり ドライヤーあり
内湯 露天
500円(内湯のみ)(内湯と露天700円)
10:00~15:00
休:火・金
2016/3/26